「第14回出生動向基本調査(2010年)」によると、独身男女の独身の利点は「行動や生き方の自由」(男性65.1%、女性71.4%)のほか、「金銭的な裕福」(男性28.1%、女性18.1%)や「家族扶養の責任がなく気楽」(男性23.8%、女性19.2%)等に求められている。これに対して、結婚の利点は「子どもや家族をもてること」(男性33.6%、女性47.7%)、「精神的安らぎの場」(男性32.3%、女性29.7%)、「愛情を感じている人と暮らせる」(男性13.7%、女性17.6%)など、独身の自由にはない自分の家族をもつことへの情緒面での充実や精神的な安定などに求められている。
これらの利点のどちらを選ぶかは個人の選択の問題であるが、上記調査によると、結婚相手の条件として重視または考慮する項目は、第1位が「人柄」(男性95.1%、女性98.3%)、第2位が「家事・育児に対する能力・姿勢」(男性93.0%、女性96.4%)、第3位が「自分の仕事に対する理解と協力」(男性89.0%、女性92.0%)となっており、男女ともに家事・育児能力が求められる時代となっている。また、「経済力」(男性38.7%、女性93.9%)や「職業」(男性43.3%、女性85.6%)の項目では、男性より女性の割合が顕著に高く、この点に伝統的な性別役割分業意識が強く残されていることがわかる。このような現状から、男性は働く女性のよき理解者であるとともに、家事。育児のパートナーであることが期待されているのである。
なお、「男は仕事、女は家庭」という質問形式で尋ねられることの多い、伝統的な性別役割分業意識に対する「賛成」「どちらかといえば賛成」の比率は、70年代に比べて低下している。
新たな家族的価値創出の必要性
このように、若年男女の結婚と家事・育児・仕事の両立問題の背景には、性別役割分業意識の揺らぎとライフスタイルの個人化という新旧家族的価値のせめぎあいがある。この欲求を可能にする職場や家庭、地域社会の基盤づくりが必ずしも進んでいないなかで、結婚にも仕事にも家事・育児にも将来の確たる見通しがもてないばかりか、どこに人生の目標を設定すればよいのかわからないという、漠たる不安に包まれた若年世代の生き方が形成され、未婚化・晩婚化・晩産化というライフスタイルヘとつながっているのである。
マートン(R.K.Merton)は、社会の文化目標と達成手段との齟齬をアノミー(無規制)状態と呼んでいる(Merton 1949-1961)。急激に変化する社会の中では、全体社会の目標(競争、業績等)と個々の家族の生活手段との雌嬬は拡大することになる。たとえば、子育てと仕事の両立を望む女性は増加したのに、産体明けの乳幼児保育や男性の家事。育児参加は進まず、女性の仕事と育児との両立にはさまざまな葛藤が生じゃすい。このような現状が独身男女の結婚観や出産。育児への志向性を希薄化させ、結婚先延ばし型のライフスタイルを生み出していることになるであろう。
未婚化・晩婚化・晩産化など少子化へとつながる家族変動の背景には、以上のとおり、伝統的価値としての性別役割分業観の揺らぎと、これに代わるライフスタイルの個人化という2つの新旧家族的価値の葛藤があることになるであろう。これに対して、若年世代に新しい結婚や家族的価値を選択させる全体社会の新たな価値や子育て支援の制度化は弱い。少子化問題への積極的な対応には、若年世代が働きながら家庭や職場、地域社会で夢のあるライフスタイルを選択できる、社会の新たな規範や制度づくりが求められている。
「安らぎの場としての」家族、「問題を生み出す・病的な」家族
家族の個人化・ライフスタイル化が進むなかで、人びとは何を家族に求めているのであろうか。2014年に実施された、内閣府「国民生活に関する世論調査(平成26年版)」によると、家庭の役割(複数回答)については、「団栞の場」66_0%、「休息、安らぎの場」63.7%、「家族の絆を強める場」53.9%が高い割合を示している。また、「親子がともに成長する場」37.7%、「夫婦の愛情を育む場」28.7%、「子どもを生み育てる場」28.4%等がこれに続いており、家族は団渠・休息・安らぎなど情緒的機能とともに、子どもを生み育てる場としての重要な機能をもつている。2001年に実施された、内閣府「平成13年生活選好度調査」の結果から、家族と生活満足度との関係をみると「何よりもまず家族を第一に考える」という質問を肯定した割合は全体の87.2%と9割近くに達している。また、家族を第一に考える人ほど生活満足度が高くなっており、家族の個人化やライフスタイル化が進んだ場合でも、人びとのライフスタイルにおける家族志向が急速に弱まることはないと考えられるのである。
とはいえ、現代家族は必ずしもすべての人びとの安らぎの場とはなりえていない。その第1は、離婚件数の増加であり、その結果のひとつとして、ひとり親世帯の増加が考えられる。離婚は夫婦間のみの問題にとどまらず、子どもを含めた新たな家族間の緊張・葛藤を生みやすい問題でもある。このような家族問題にどのように対応するかが問われることになるであろう。
第2に、家庭を安らぎの場とする役割は女性に求められることが多い。女性の職場進出が進むなかで、女性を世話する人(育児・介護等)とみなす家族的環境は、女性の仕事と家庭への過重負担を生みやすく、女性にとって家庭は必ずしも安らぎの場とはなりにくい。家庭におけるジェンダー格差の解消がなされなければ、安らぎの場を家庭内に見出すことは難しい状況といえる。
第3は、子どもと家庭を取り巻く環境の変化と多発する家族病理の問題である。暴力や虐待、犯罪や薬物依存、引きこもり、フリーター、ニート等の問題などは、家庭が安らぎの場ではないことを逆説的に物語っている。
