少子化問題にまつわる価値観等の問題

戦略史概論 | 記事URL


少子化問題は狭い意味での家族政策だけですむ話ではありません。価値観の問題、労働問題、地域社会や一般社会の問題も複雑に絡んできます。


◆価値観の問題
一番難しいのは「価値観の問題」でして、南ョーロッパから北の西ヨーロッパ諸国、あるいは米国、豪州などと比べると、家族観、ジェンダー観がかなり違います。伝統的な性別役割分業型の家族観、親子関係が夫婦関係に優位するような拡大家族的な家族観、夫唱婦随的なものが残っているジェンダー観、そういうものがこの問題にかかわっているのではないでしょうか。日本、アジアNIEs、南欧諸国で少子化が大変深刻で、しかも女性の社会進出も乏しい、女性が社会進出している場合には未婚者が非常に多いという状況を見ると、こうした価値観がこの問題の解決を妨げているのではないかと感じざるを得ません。日本やアジアNIEsには儒教文化の共通の伝統があり、日本には戦前の家制度の影響が残り、南欧諸国では、マチズム(machism)といわれる価値観がいまだ残っています。従って家族政策を超えた政策的な視点としては、男女共同参画をさらに強力に推し進めることがこの問題の解決につながるのではないかと思っています。出生率も、女性の労働力率もともに低い状況を突破しないと、この問題の解決はないと思います。


もう一つは、同棲、婚外子が少ないということです。だからと言って、「では、同棲を奨励しろ」とか、「婚外子を認めればいいのだろう」ということではありません。これは、若者がどういう行動を選択するかという問題であって、政策的にどうこうしにくい問題であるように思います。非同居カップル、同棲、婚姻を全部含めて先進諸国を横に並べると、どうも日本は「親密な男女関係」が最も少ない国のようです。今年の日本人口学会でも、日本は、若者も中高年者も、男と女の距離が大変遠い社会になってしまった。この距離を縮めなければ、少子化問題も高齢者問題も解決がつかないということが話題になりました。これは政策には馴染みにくい問題なのですが、十分考えていく必要があります。


◆不安定就労の若者
二つ目は労働問題で、最近フリーターやニート(仕事に就かない若者)の増加が指摘され、さらに派遣労働やパートがふえて、若者の不正規就労とか不安定就労の増加が社会問題化する状況が出てきました。そういうものが若者の将来設計をたてにくくしており、結婚や出産が減るのはそのせいではないかと指摘する人もいます。ただし、これは必ずしもデータで証明されているわけではないのですが、九〇年代半ば以降については二つの現象が同時的に起こっていることは事実です。従つて、労働政策として、あるいは教育政策として、若者の就労を促進することが少子化対策につながる可能性はあります。


◆企業・労働市場の問題
三つ目は企業・労働市場の問題です。この問題で政府がやれることには限りがあります。両立支援といっても、根本的には日本人の働き方、働かせ方の問題が大きいのではないかと思います。ファミリーフレンドリーな(家族に優しい)会社が注目されています。ILO(国際労働機関)の国別比較調査でも、やはり会社のボスが赤ちゃんにどれだけやさしいかということがこの問題の解決につながるということでしたが、日本の今までの企業の働き方、働かせ方、とりわけ普通の先進国ではありえないような「サービス残業」が存在すること自体が、仕事と家庭の両立を難しくしている最大要因ではないかと思います。次世代育成支援対策推進法がそういうものを改善する方向に使われれば非常に望ましいのですが、それがどこまで実行されるかは、ペナルティーがないだけに、おぼつかない部分があるように思います。


次世代育成支援対策推進法が掲げているもう一つの目的は、日本全体の自治体が、子ども、子育てにやさしいコミュニティーをつくっていくことですので、その力が発揮されて、自治体自身の努力でそういう方向に向かって行けば、大変望ましいことでありますが、それがさらに広まって、社会全体が子どもや子育て中の家族に優しくなり、ファミリーフレンドリーな社会になっていけば、結果としてある程度少子化問題の解決につながると思います。




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