日本の家族政策の国際比較

戦略史概論 | 記事URL


日本の家族政策は、国際比較的にみるとどのような位置づけになるのでしょうか。。


一つは子育ての経済支援で、児童手当と税制における扶養控除が中心になります。子育ての経済支援政策を国際比較研究している英国のブラッドショーの研究が役立ちます。彼は家族モデルをつくって、各国別に子どもを持つことによってどの程度可処分所得が変わるかを計測し、それを国際比較したものです。日本の子育て経済支援は、先進国の中で平均以下で、南ヨーロッパ諸国に近いです。先進国間で非常にばらつきがありますが、日本は胸を張れるような状況ではありません。


二つ目は仕事と子育ての両立支援ですが、このうち保育サービスの分野を比較してみましょう。この分野で著名なカーメルマンの研究では、「保育施設(幼稚園も含む)」に0〜2歳人口、3〜6歳でのグループごとの入所率をみました、日本は低い所に位置します。ただし、日本では専業主婦が多いから入所率が低くなるともいえます。逆に、フランス、ベルギーのようなフランス語圏では、ほとんどが保育施設のサービスを利用していることにもなります。0〜2歳の方は、育児休業制度との関係もあるため、複雑になりますが、それでも北欧諸国の入所率は大変高い。北欧諸国の場合、母親が育児休業を取った後すぐに、ほぼ全員が保育所に入るので、入所率が50%くらいになるのです。


各国の育児休業制度をみると、14年間で日本の育児休業制度はヨーロッパの中間水準並みになってきました。ただし、北欧諸国と比べると、足りない部分がいろいろあります。子どもが生まれた直後の女性の出産体暇にあわせて父親が休暇をとるという制度が北欧諸国では一般的でありますが、日本の場合は育児休業の一年間の権利のなかから父親がとれるとなつているのみです。スウェーデンやノルウェーのように、有給育児休業期間を一年か一年三カ月とし、そのうち四週間は男性しかとれないと義務付けてしまう国もありますが、日本ではそれもない。


子どもが熱を出したときに両親が休暇をとれる。「家庭事情休暇」も北欧は非常に充実している。日本ではこれも努力義務でしたが、ようやく2005年から小学校入学前の子ども一人につき、年間5日間の看護休暇がとれることになりました。


◆仕事と子育ての両立支援
そうした制度の帰結として、女性の労働力率と出生率の関係をみると、仕事と家庭の両立支援が社会全体として強まれば、女性も働きやすい、そして子育てもしやすい。だから女性の労働力率も出生率も高くなるはずなのですが、そういう国は緩少子化国です。超少子化国の日本や南ヨーロッパ諸国は、女性の労働参加も少ないし、出生率も低い。その理由の一つは、両立支援政策が不十分で、実効性が乏しいからといえます。


日本では、学校を卒業してフルタイムの仕事に就いた女性のうち、結婚を経て第一子の出産までに70%強が退職してしまいます。職場に残った人の中で育児休業をどれだけ取るかというと、まだ70%ぐらいです。そういう状況ですので、法律はあっても、なかなか実際には利用されていないという側面があるように思われます。


もう一つは、子育て家庭に対する社会保障給付の関係ですが、国立社会保障・人口問題研究所の勝又幸子がOECDのデータに基づいて研究しました。社会保障給付の中で、子どもや家庭に対する給付がGDP比でどれくらい使われているかを示したものです。日本と南ヨーロッパはよく似ていて、非常に給付水準が低い。社会保障給付の中で、子どもや家庭に使われる給付と高齢者向けに使われる給付がどういう割合になっているかを示したものですが、日本と南ヨーロッパは子どもへの給付割合が低く、高齢者への給付割合が高く、どちらかというと「子どもに冷たく、高齢者にやさしい」社会と言えそうです。少子化対策開始以後の日本の家族政策は、育児休業制度の導入、休業中の所得保障の充実、保育サービスの拡充と、両立支援という点では見るべき変化はありましたが、女性労働者の結婚・出産退職率の高さなどからみても、仕事と子育ての両立がなかなか実現しがたい状況が顕著であるように思われます。子育ての経済支援も徐々に強化されてきましたが、先進国の中では、南ョーロッパ諸国と並んで、日本は最も支援の薄い国の一つです。さらに社会保障費全体として見ても、南ヨーロッパ諸国と並んで、子どもにやや冷たい状況が見てとれます。家族政策という観点だけから見ると、家族政策が北欧諸国やフランス語圏諸国ほど強力ではないことが、日本や南ヨーロッパの超少子化状況に、関係がある可能性があります。この点で日本の家族政策が一段と強化されることが期待されます。



医療的ケア教員講習会

終末期ケア資格

実務者研修教員講習会



- Smart Blog -