集団や社会における個人の位置、あるいは他者との関係で意識されるお互いの属性を「地位」という。そして個人はその地位に対応した行動様式を集団や社会から期待されているが、その期待される行動様式を「役割」という。役割は、ある地位に期待される行動様式として学習され、地位に伴う権利義務の具体的な実行を指すものであり、地位の動的な側面であるということもできる。
これを親子関係に適用すると、ある人間との関係で「親」という立場(地位)にある者が「親」として期待される役割を果たすためのさまざまな行為と、ある人間との関係で「子」という立場(地位)にある者が「子」として期待される役割を呆たすためのさまざまな行為の複合体として、親子関係が把握されることになる。したがって、親子関係を社会学的に捉えるということは、「親」「子」という地位関係が形成される契機や、その地位関係から相互に期待される役割の内容に注目するということになる。そして、後述する親子関係の多様性は「親」「子」という地位関係が多様に形成される可能性を示唆している。
社会化
社会化(socialization)とは、社会の新成員が当該社会の価値や規範などの文化パターンを習得することによって、当の社会に適合的なパーソナリテイを形成することである。そして、社会化はもう1つ、社会システムの側面からも捉えることができる。社会は自らのシステムの存続・維持のために、絶えず新成員を補充しなければならず、社会システムの側からすれば、パーソナリテイ形成の過程は、人材を社会システム内に配分することでもある。この人材配分を社会化の側面と捉えると、社会化は、社会の形成・維持には不可欠な機能である。
社会化は、個人の側からみると、所属するさまざまな集団、すなわち、家族、地域社会、遊び仲間、学校、職場などの人間関係を通して、社会の成員として生きるための知識や技術、規範などを自己の内部に取り入れていく過程である。その意味では、社会化は人間の一生を通じて展開される。その中でも、人間が最初に所属する集団である家族における社会化は、最も基礎的なものであり、人格形成上、重要な意味をもっているとみなされる。そこで家庭における子どもの社会化を第1次社会化と呼ぶこともある。社会の側からみれば、それぞれのライフステージ(生活段階)において求められる人間像があり、それを個人が獲得することが期待される。
親子関係でみるならば、子(個人)としては、それぞれのライフステージにおいて解決すべき課題(発達課題)に直面するごとに、社会化課題を身につけることが求められる。そして社会化を担う親自身も、社会的親という役割を取得・遂行し、子どもの発達段階に応じて変容する過程であると捉えることができる。親は、社会的にも子どもの経済・健康ニーズを充たす主として物質的な支援(養育機能)と、社会・精神ニーズを充たす主として精神的な支援(教育・社会化機能)の2つの役割を担うことが期待されている。また、日本の民法では、「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。
ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う」(第818条3)、「親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う」(第820条)と規定されている。この条文からも、婚姻中の父母(あるいはそのうちの一方)が子どもの社会化責任を求められているといえよう。
親子関係の多様性
親子関係については、多くの人は血縁関係があるつながりを思い浮かべるかもしれないが、親子関係は血縁関係を有するつながりばかりでなく、人為的・社会的につくられたものもある。たとえば『新社会学辞典』には、親子関係は「子の出生、養子縁組、婚姻などによって生ずる親と子の世代間の人間関係。生物学的な血縁関係による親子関係だけでなく、養父母と子、継父母と子、里親と里子、ときには嫁と姑など義理の親子関係を含む。一般には夫婦関係とともに家族を構成する主要な関係であるが、別居や離婚などにより家族を構成していない親子関係も含まれる」と記されている(森岡ほか編1993)。
人為的に親子関係を形成する養子制度は古くから各国に存在し、 日本でも律令時代にはすでに制度として存在していた。近世においては武士家族法の分野ではおそらく半数くらいは養子関連法で占められているといっても過言ではないという。その理由は、後継者なき場合には知行没収、お家断絶を免れなかつた当時の武士の家にあって、断絶を防止するための手段として、死活に関わる相続法上の重要な制度だったからである(鎌田1988)。
さらに『新社会学辞典』では、「また日本の社会においては、オヤーコとは、親方―子方、親分一子分などのように広く社会集団や社会組織における庇護者と奉仕者、あるいは指導者と従属者からなる身分関係も表している。
血縁関係によらない生活上の密接な庇護と奉仕の上下関係は擬制的親子関係と捉えられ、 日本社会に見られる特徴的な社会関係といわれている」と続いている。「擬制的親子関係」が親族関係的性格をもったものに限定されるか主従的な身分関係を示すかは、研究者によっても見解が分かれているようだが、いずれにせよ血縁のある実親―実子関係のみを親子関係と捉えることはできない。
また、人類学の分野では「生物学的父」と「社会学的父」は区別され、この「社会学的父」が母の性的パートナーとは限らない事例も報告されている。このように、親子関係は多様な形で存在してきたことを認識しておきたい。
