日本では1973年のオイルショック以降に経済の低成長期に入ってからも、依然として近代的な結婚規範が維持された。特に、社会保障政策がより家族主義的制度に傾いたことの影響は大きい。家族主義的制度とは、エスピンーアンデルセン(G.Esping-Andersen)によると「家族がその成員の福祉に対して最大限の責任を持つべきだという前提に立って政策が作られる制度」である(Esping-Andersen 1999=2000)。低経済成長期に入り、夫は稼得役割を担うものの1人の稼ぎでは家計の維持が難しくなった。一方、雇用の流動化が進められ、家事役割を担いながら家計を補充するためパート就労をする妻が増加した。
この時期、社会保障政策上の標準家族は「夫はサラリーマン、妻はパート主婦」となり、法律婚内での夫婦は手厚く保障された。たとえば、1980年代には「家庭基盤充実策」として、配偶者の民法上の法定相続分引き上げ、税金の配偶者控除、配偶者特別控除、年金保険料の第3号被保険者への免除、パート所得の特別減税、同居老親の扶養控除などが導入された。これらに対し、大沢真理は「基本的に家庭にあって妻・母として、時にパート就労をこなしながら、家族員に『生活保障』を提供する女性の役割を、主に夫の財政福祉を通じて『評価』し、性別役割分担を維持させようとした」としている。たとえば、配偶者控除は、妻の収入が年間103万円未満の家庭に対し、妻を扶養する費用を考慮して夫の税金を控除する制度であり、このような税制を通じた納税者への間接的な給付を「財政福祉」という。夫経由の財政福祉のもとでは、性別役割分業規範が強化されるとともに、被扶養者(妻)はその間接的な給付は受けられないという問題が存在する(大沢1993)。
女性は、夫の財政能力で自分の評価が定まる状況で、結婚によって自身の評価を下降させたくないなら、結婚相手を自分の生殖家族と同等以上の階層から選ぶという結婚戦略をとることになる。実際、1985年のSSM調査に基づき女性の結婚動向を分析した渡辺秀樹と近藤博之によると、恋愛結婚の方が見合結婚より、父親の職業に連関した階層の配偶者選択をしている傾向にあった(渡辺・近藤1990)。たとえば、サラリーマンの父親のもとで育った女性は、父と同じくサラリーマンである男性と恋愛をし、同類婚を行うことになる。恋愛結婚のもとでは社会階層に縛られない結婚が可能であるが、SSM調査の結果は、女性がいかに結婚相手を自分の生殖家族の社会階層を意識した上で選んでいるかを示している。
経済の低成長期には、社会保障政策上の標準家族から外れた人びと、すなわち、離婚したり婚外子を生んだ女性は、法律婚内での夫の財政福祉の恩恵がないため、不利な状況に追い込まれた。たとえば、母子世帯(20歳未満の未婚の子どもと母の家庭)では、母子世帯になった理由(死別、離別、未婚の母)別で、待遇が異なる。死別した場合は法律婚内での事故であり、母の収入に関わらず夫(父)の遺族年金という形で母と子の生活が保障される。
だが、女性が離婚したり婚外子を産んだりした場合は、母の収入額によって児童扶養手当(子どもは18歳未満)が給付され、その額は遺族年金よりも低い。妻には優しく母に厳しい社会保障制度は、母役割と妻役割は一体化していなければならないとする近代家族規範に基づいている。さらに、1980年代には、18歳未満の子どものいる夫婦間での離婚増加に伴い、児童扶養手当の総額を抑えるため、支給対象の所得制限が引き下げられて保障水準が低下した。また、父子家庭も増加したが、妻の家事役割を前提とした社会制度では、父が稼得役割を負いながら子育てするのは困難で、転職などで減収を余儀なくされる家庭も増加した。
また、1980年代から中山問地域を中心とした地方圏では、外国人の妻と日本人の夫という国際結婚が増加している。妻の国籍は、中国、フイリピン、韓国・朝鮮、 タイと、 日本とは経済格差のある国が中心で、外国人妻には、出産と親の介護が期待されていた。家族主義的社会保障制度は国際結婚の増加という結果をももたらした。
現在の結婚をめぐる状況
近年の結婚の特徴として、若年層で妊娠した後の結婚が増加している点がある。結婚期間が妊娠期間より短い出生の嫡出第1子出生に占める割合を母の年齢階級別にみると、1995年以降各年齢層で増加傾向にあり、2009年には「15~19歳」で8割、「20~24歳」で6割、「25~29歳」で2割、30歳以降で1割となっており、年齢層が若くなるほど高くなっている。これらから、結婚と生殖を結びつける結婚規範は強いものの、結婚制度下でのみ性行為がなされるという性規範は崩れていることがわかる。また、15~19歳の有配偶女性の離婚率が高くなっており、1980年の20.8‰が以降5年ごとに10ポイント以上伸長し、2010年には82.7‰に達している。20~24歳という年齢層でも48.3‰に上り、若年層においては結婚生活を維持することが難しい傾向にある。結果として若年層における母子世帯は増加している。
先にみたとおり、母子世帯は1998年以降に増加し、母子世帯になった理由別にみると、2011年には未婚の母が死別を初めて超えた。子どものいる年代は社会保険料や税負担の大きい年代でもある。
このため、母子世帯ではこれらの負担額が児童扶養手当の給付金より大きく、社会保障費用の負担によって貧困の度合いが高まるという逆機能が起きている(阿部2008)。未婚の母の場合は、婚姻歴があると適用される税の「寡婦控除」がないため、離別や死別の母より税金をより多く支払わなければならない。父子世帯においても、2006年に398万円だった平均年間収入は2011年には360万円までに下がっている。父子世帯では、また、家事責任のために長時間労働ができない父親がリストラの対象になることが多く(赤石2014)、標準家族をあるべき姿と規範化した社会保障制度は、子どもの貧困問題を引き起こしている。
男性の非婚化は女性よりも進んでいるが、一貫して男性未婚者の9割前後は、いずれは結婚しようと考えている。しかし、『第2回人口問題に関する意識調査』(1995年)の男性の年収別未婚率では、年収の多さと未婚率は反比例の関係にある。また、「結婚・家族形成に関する意識調査」(2014年)では、結婚の意思がある未婚男性の結婚生活への不安要素をみると「経済的に十分な生活ができるかどうか」が年収400万円以上では40.8%、400万円未満では61.6%と年収による違いは大きくなっている。これらから、男性において、未婚化や非婚化が進む背景には、「結婚して一人前」という結婚規範が強いまま、男性の収入が減少している現状があることが指摘できる。
先進国の結婚をめぐる変化と日本の今後
先に近代化を果たしたヨーロッパ諸国やアメリカでは、結婚をめぐる状況は大きく変わってきている。
1960年代にアメリカやヨーロッパ諸国で始まったフェミニズムの運動は、近代社会における性別役割分業に基づいた労働システム、そして、近代家族に据えられた男性優位な「家父長制」への異義申立てであった。近代的な家族のありようが男女不平等を生み出しているという視点で、差別撤廃に向けた取り組みは世界的なうねりとなつた。1979年に国連総会が採択した「女子差別撤廃条約」では、男女の役割分業の固定観念をなくすために、社会慣習や人びとの意識を変えることの重要性が指摘された。
これらの流れの中で、西欧諸国では、生物学的な男性と女性の性的結合による婚姻家族を基本とする社会構造の見直しが始まった。異性間の恋愛と性行為と生殖を一体化させている近代的な結婚制度が解体される方向へ動きだしたのである。ヨーロッパ諸国やアメリカでは、近代化とともに国家が国民を統制するための制度となった結婚が、個人の幸福追求のための自己決定として社会的に保障するものへと変わってきた。
結婚が、国家のための次世代労働力として嫡出子を再生産する制度でなくなれば、法律婚と事実婚を区別する必要性もなくなる。法律婚と事実婚とを区別するのは、制度内で生まれた子を嫡出子として位置づけ、子の養育を合法的夫婦に義務づけることを明確にするためだからである。したがって、結婚が嫡出子を再生産する制度として機能しなくなれば、同性婚も正当化されることになる。すなわち、同性カップルの同居は事実婚として社会的に保障されるし、法律で結婚として認めることもありうる。
西欧社会ではキリスト教の影響などにより同性愛を罪とする規範が強かったが、現在、先進諸国では人権意識の高まりととともに、人間の性的指向(性愛が向かう方向性)は異性に限らないという事実が容認されてきている。実際、同性婚については、2015年の8月にアメリカの連邦最高裁判所が同性婚を合憲とする判決を出し世界的な話題となった。2016年4月時点では同性婚は23か国で可能となり、婚姻に準じるパートナーシップ制度などが導入された国も29か国(うち3か国は同性婚も可)となった。法的に承認されたパートナーシップ関係はシビル・ユニオンといわれることもある。パートナーシップ制度が保障する内容は、国で異なる。フランスのPACS法(民事連帯契約法)は、事実婚を法的に保護するためのもので、異性愛か同性愛は間わない。さらに、婚姻に限らず生活パートナーにも適用するドメスティック・パートナー法など、共同生活への法的保障は多様な広がりをみせている。
同性カップルの場合は、性別役割分業は存在しないがどのような役割分担をするかは両者の合意に基づくことになる。しかし、性別役割意識に基づく男女の賃金格差が先進諸国においても依然として存在することから、女性同士のカップルの場合は、貧困に陥りやすいという問題も存在する。
また、婚外子についてみると、婚外子の割合は、当該社会で結婚がどの程度制度化されているかをはかる尺度となる。法的な届出ではなく、カップルの共同生活の実態によって結婚と同様の財産相続、年金、医療保険、児童手当などの権利を保障されるならば法律婚の利点はなくなり、結婚制度内で生まれた子どもと制度外で生まれた子どもの取り扱いの違いもなくなるため、婚外子は増えるからである。女子差別撤廃条約が採択された頃は、西欧諸国でも婚外子の割合は低かったがその後上昇し、2008年にはフランスやスウェーデンでは5割を超えている。これらの国の伸び率と比べると、日本ではほぼ変化はなかったに等しい。
だが、 日本も、独身者、非婚の母、外国人妻、再婚、など近年、結婚の多様化は進んでいる。たとえば、2013年には、婚外子の遺産相続分を法律上の夫婦の子(嫡出子)の半分とする規定を削除する民法改正案が成立した。2015年には、世田谷区と渋谷区で同性パートナーを認める公的証明書が発行されるようになり、横浜市、宝塚市なども同様の制度を審議中で、地方自治体で同性カップルに対して政策的対応が進められている。その一方で、現状では、性別役割分業型の婚姻家族を規範化した社会制度の存在が、多様化する家族の実態に合っておらず、結果として子どもの貧困のような社会問題を生み出している。民主的な結婚制度を構築するためには、子育てや介護のケア役割の社会化や、男女に均等な雇用の保障、 また男性の長時間労働の解消など、多面的な対応が必要である。したがって、婚外子に対する遺産相続規定の改正や同性カップルの社会的認知にみられたような動きを大切に、人権の視点を盛り込んだ上で結婚をめぐる司法制度や教育制度に関する社会の仕組みを変革していかなければならない。
