家族周期と親子関係
家族周期と親子関係

親子関係において期待される役割の内容は、家族の生活周期(家族周期)によって変化していく。私たちの一生は、出生に始まり、成長し、やがて成熟期を迎え老衰期を経て、死によって終了する。このような生命現象に規定された人間の一生のコースを、いくつかのライフステージによって構成される生活周期(ライフサイクル)として捉えることができる。人間はその多くの時間を家族の成員として過ごしており、夫婦の結婚と死亡、および子どもの出生と成長によってその存続を基本的に規定された生活体である家族には、ライフサイクルと呼ぶことのできる時間的展開の規則性が認められる。これが家族周期と呼ばれるものである。

家族周期は、たとえばライフステージごとに、結婚による家族の形成から第1子出産までの「新婚期」、第1子出産から末子の成人・独立までの「育児・教育期」、末子の成人・独立より親夫婦の退職・引退までの「円熟期」、親夫婦退職・引退から死亡までの「高齢期」に区分することができ、その区分ごとに、それぞれのライフステージの親子関係の特徴や生活課題がある。

それらはもちろん個人差があるが、以下、ステージごとに特徴や生活課題をみていこう。

新婚期の家族

新婚期には、両者が満足できる夫婦関係の形成、長期的な生活設計の輪郭の作成などの発達課題があり、生活設計のひとつとして子どもを産む/産まないという家族計画の検討が含まれる。かつて乳幼児の死亡率が高かった時代は、子どもは人知を越えた「授かる」ものであったが、生まれた子どもがほぼ育ち上がると思えるようになると、子どもは「授かる」ものから「つくる」ものへと変化した。そして、現代社会においては子どもを産む/産まない、産むとしたら何人産むかなどといった選択について、個人(夫婦)の自由が認められている。そして選択の自由が与えられているということは、同時に、その選択の責任を自分たち(夫婦)で負うということを意味する。社会通念としての親の役割内容を考えれば、産むことを選択するということは、長期にわたって子どもを養育し、一人前の大人に仕立て上げるという親の役割を背負うことをも意味している。また、今日では、結婚後も夫(父)役割、妻(母)役割に特化せず、それらの役割以外のところで自己実現をめざす風潮がある。家庭内役割以外のところで自己実現をめざす場合、子どもを産み育てることを自分の人生設計の中でどのように位置づけるかについても課題となる。有職女性の場合は特に、出産・育児休暇取得や仕事への復帰に際して利用できる制度や受けられる支援などを確認したり、育児役割を夫婦で確認しあったりする必要もあろう。

育児・教育期

新婚期は計画の段階だった育児が現実となる。もちろん、親は、子どもが生まれたということだけで、親として期待される役割を自動的に遂行できるものではない。子どもとの相互作用を通してその都度修正されて親としての自覚と自信を得ることになる。

「子どもの徳育に関する懇談会 審議の概要(平成21年7月)」には、子どもの発達段階ごとの重視すべき課題として、乳幼児期は「愛着の形成(人に対する基本的信頼感の獲得)」「基本的な生活習慣の形成」「道徳性や社会性の芽生えとなる遊びなどを通じた子ども同士の体験活動の充実」が掲げられている。このような発達課題に対し誰(どこ)がどのように子どもに関わるか、どのような場を設定するかなどが周囲の大人に求められる。

育児期の親子関係については、特に母子関係に大きな意味づけがなされてきた。たとえば1つ目の愛着の形成。人に対する基本的信頼感の獲得に関して、特に「3歳児神話」として母親に大きな役割を求める風潮があった。子どもの成長にとって3歳頃までがとても大切だということだけでなく、その時期が大切だからこそ子どもを生み育児の適性がある母親が子育てに専念すべきであり、この時期に母親との関係に問題があると、将来にわたつて子どもの成長にゆがみが生じ、取り返しがつかなくなるとみなされた。このような意味づけが、母親への過度な育児役割期待となっていった。

しかし、このような母親への過度な期待や母親が育児に専念することは、近代家族の特徴であり普遍的な役割ではない。伝統的社会の「家」制度のもとでは、子どもは「家」に属し、生物学上の親に属しているのではないと考えられていたため、若い母親は自分の子どもの世話に専念させてもらえなかった。また、田畑や商店での労働が家庭の経済的保障に不可欠だったため、大部分の女性が生産的役割の方に専念せねばならないのが現状で、勤労者層の母親は依然、子育てを祖父母や子守、年長の子どもに頼っていた(Holloway2010=2014)。また、近代家族は家族のプライバシーを確保する特徴があるのそのため、今日の子育ては、家族外から子育ての干渉が弱まると同時に、保護の手が家族外から届きにくくなり、密室の中で孤立しがちである。そのストレスが子どもに向かい、虐待(身体的虐待や性的虐待、心理的虐待、ネグレクト=養育放棄)が起こってしまうこともある。

このような、母親への過度な育児役割期待と、育児中に母親が孤立しがちな状況の改善のため、専業主婦家庭にせよ共稼ぎ家庭にせよ、母親の育児負担の軽減が求められる。

そこで注目されるのが、まず父親の役割である。父親の役割については、家父長制家族制度の崩壊、高度産業社会の進展による家族における父親の不在、権威の空虚化などが子どもの発達へ与える影響という方向から関心が高まってきた。さらに1990年代以降は女性の就業の増大を背景に、父親の養育役割に関する関心や研究も進んできた。たとえば、父親の養育行動が子どもに与える影響について先行研究を概観し、父親の支援が増すほど子どもの精神的健康は高まり、父親の統制が増すほど子どもの精神的健康は低下することが考えられるという研究報告もある(石川2004)。そして育メンという言葉も現れ、父親の育児に対する考え方や行動に少しずつ変化が現れている。しかし、いずれにしても、現代社会においては、子どもの成長と自立を促す担い手として、生みの親の役割期待がたいへん大きいのが実情である。

ほかに彼らが頼る先として期待されているのは双方の実家(の母親)で、地域コミュニテイの中で子育てが展開されにくい今日では、頼れる人(場)が限定されているというのが実情である。

さらに女性の就業の増大を背景に、保育所の整備・充実が公的な子育て支援政策で重視されているが、子ども同士が集える場所は、子どもの発達にも重要な役割を果たしている。先述した、乳幼児期における子どもの発達において重視すべき課題の「子ども同士の体験活動の充実」が求められるのは、大人がつきっきりで遊んでも友達のかわりにはなれず、子ども同士の対等な人間関係のつくり方は身につかないからである(落合2004)。子育てという側面だけでなく子どもの発達支援のためにも、保育所や幼稚園などとの連携や、子育てグループなどのネットワーク形成が必要である。

さて、子どもは就学すると、少しずつ学校で過ごす時間が長くなり、やがて日中の大半を学校で過ごすようになる。学校の規則やリズム、文化の影響は、大きく家庭や地域社会に溶け込んでおり、親子関係もこのような状況に無関係ではない。地域社会の社会化機能が弱化するなかで、今日の子どもたちにとって学校の意味は大きい。それは家庭間格差を解消する機能を呆たしてきたかもしれないものの、学校での評価や通った学校自体の世間の評価が、その子の将来に影響を及ぼすという考え方が根強いなかでの家庭教育のあり方と学校教育への関与のしかたは、教育期の親子関係の大きな課題である。

小学校上級の時期、発達心理学や子どもの社会化研究の成果に示されるように、子どもは社会の成員として社会化の訓練が最も効果的になされる時期であると同時に、子どもの身体的・精神的な成長が加速するようになり、早い子どもでは思春期危機に突入していく(川崎2000)。青年期に入ると、これまで引き受けてきた「子どもとしての役割」から、「大人としての役割」の受け入れを期待される時期でもあり、不安や葛藤がより生じやすくなる。

いじめ、不登校、暴力行為、学級崩壊など「教育病理」現象と呼ばれる子どもたちをめぐる問題行動、ストレスの問題やたばこ、アルコール、薬物乱用、危険な性行為など健康を妨げる問題に無関心ではいられなくなる。さらに今日では、いわゆるSNSをめぐる問題(危険サイトヘの接触、長時間接触、SNS上の交友関係のトラブル)のような、大人が気付きにくいものもある。これらの問題は、家庭での努力のみで防ぐことができるものではないが、学校や地域社会、専門機関等と連携しつつ、問題を未然に防ぐ取り組みと問題が発生した場合の適切な対応が必要となる。

さらに、 この時期、子どもは成長・発達段階が大きく変化する時期であると同時に、親の側も、たとえば職場での昇進や転勤があったり、それまで家事・育児に専念していた母親が再就職したりするなど、変化が生じることが多い時期でもある。親子双方がお互いの変化を知り理解を深める上で、親子間のコミュニケーションが求められよう。

円熟期

末子の成人・独立から親夫婦の退職・引退までの時期で、排出期ともいう。子ども側からみると独立期となる。親夫婦の晩婚・晩産により末子の成人・独立よりも親の退職時期の方が早く訪れる場合もある。このステージが他のステージから区別され人びとの関心を集めるようになったのは近年のことである。子だくさんであつた時代は寿命が短かったこともあり、末子の成人・独立後の期間自体が短いために注目されなかったり、身体機能が低下していて次のステージ(高齢期)を迎えたりしたからである。しかし、人生80年時代の到来と、少子化による育児・教育期の短縮は、健康な親と成人した子からなる親子関係が一定期間継続する状況を出現させた。さらに近年の未婚化や晩婚化、若年層の非正規雇用の増加などから、健康な親世代に子世代が依存するという構図も表面化してきている。

このステージでは、親がサラリーマンの場合、定年後の人生設計が必要になる。子の方は、結婚し育児・教育期を迎えている、結婚しているが子どもがいない、結婚していない、経済的に自立できていない、などさまざまな状況がある。そして親夫婦が健康で経済的・精神的にゆとりがあれば、ややもすれば子への育児支援や経済的支援など一方向的な援助関係を生みやすい。

子にしても親からの援助はありがたく、相補的にお互いのニーズを充足しているようにみえる。岩上真珠らが実施した「青年期の親子関係と経済」調査(1991~ 1992年、対象は20歳代の未婚男女とその親世代に相当する50代)によると、学業を終え就職していてもまだ、自分が経済的にも精神的にも自立していないと考えるヤングアダルトは多く、離家経験がある者や親と別居している者の方が「自立している」と回答し、未婚ヤングアダルトと親との関係は良好で、特に親の方が同居の満足度が高いという(岩上1997)。逆にいえば、離家経験がなく、親と同居しているヤングアダルトの自立が相対して引き延ばされることになる。そしてそこには、家庭内役割にアイデンティティを見出し、子どもの世話を通して自分の存在証明をしている母親や、子どもの存在なしに関係を維持することができない夫婦の状況がある(宮本2000)。

また、非正規雇用の増加などから、経済的に自立できない若年シングル層が近年注目されている。このような若年シングル層の多くが、親と同居することで経済的・心理的サポートを受けてきたことにより、自立できない人が急増していることが社会問題化されてこなかった(山田2014)。しかし、親から子への一方的な支援はいつまでも続くものではない。成人に達した子どもの自立と、子と親との対等な関係を構築することがこのステージの課題ではあるが、親子での課題解決が困難な要因もあり、社会的にも取り組みが必要な問題ともいえる。

高齢期

高齢期の夫婦の課題としては、加齢に伴う身体能力低下にたいして健康維持への配慮が重要になってくる。経済的自立能力も衰退し、やがて日常生活の基本的な行動能力も衰え、子どもたちを保護した立場から保護される立場へと、役割逆転が起きる(森岡・望月1997)。子どもの立場からすると、このような老親との関わり方が生活課題となる。そして、配偶者や友人の死別により社会的・精神的ニーズの充足が困難になり自立能力を弱めた老親の各種ニーズの充足を、成人子が肩代わりするという扶養役割が、長年にわたつて社会的に期待されてきた。今日もその期待は継続しているが、一方であらたな傾向もみられる。

1つは、高齢者のみの世帯(単独世帯や夫婦のみ世帯)の増加である(統計的動向については第6章参照)。積極的理由であれ消極的理由であれ、高齢者のみで生活を営むことには、高齢者のある程度の自立志向が見出せる。しかしこのことが、親が要支援・要介護状態になったとき、成人子の支援を得にくい状況を生じさせている場合がある。老親と成人子の居住地が離れている場合、離郷により成人子のもとに行けば、親はこれまで築いてきた人間関係が喪失し生活習慣が変化する。一方、親が従来の居住地に留まれば、当該地域でどのような社会的支援が得られるか、遠方の成人子がどの程度親元に行けるか、成人子の方が生活を変更し親の支援や介護を優先するか、などの問題が生じる。

2つ目は、自立していない成人子の増加である。従来、高齢者の、祖父母としての家庭内役割として、経済的援助役割、教育的役割、伝承的役割、精神的役割等が挙げられてきた。そしてやがて、子どもたちを保護した立場から保護される立場へと、役割逆転が起きる。しかし、高齢者の長寿化とある程度の自立志向は、経済的援助役割や育児援助役割、生活援助役割の長期化と、役割逆転の時期の先延ばしをもたらす。親への依存時期が長いほど、子は役割逆転の受け入れが困難になることが懸念される。

3つ目は介護役割の担い手の変化である。配偶者による介護を除いた世代間介護(子世代から親世代への介護)の過半数を占めていた嫁介護は依然として多数派であるが、実子による介護の比重が大きくなってきており、実子介護は「息子介護」を抜きに考えられない状況である。2013年に実施された「平成25年度国民生活基礎調査の概況」によると、介護時間が「ほとんど終日」の同居の主な介護者のうち、息子の占める割合は11.4%となっている。独身で同居している息子は、家事や身の回りの世話も親にしてもらっていることが多いため、経済力だけでなく生活能力も十分に身につける機会のないまま親の介護役割を担うことになる可能性がある(平山2014)。

一方、自立できない親世代の支援について、成人子が課題を抱える場合もある。熟年離婚により、離婚した父母に頼られて、子どもが父と母の支援を別々にせざるをえないケースも生じる。離婚のみでなく配偶者の死別でもいえるが、性別役割分業が徹底した関係にある夫婦は揃っていればこそ自立可能で、独り身になると夫と妻がそれぞれ1人では自立した生活を送ることができなくなる可能性がある。