明治後期になり次第に産業化が進展し都市化が進行するなか、「家」に近代的性格が備わるに至った。明治30年頃から近代国家の建設、それを支えていく国民の養成が国家的課題となるにつれ、女性に子どもを生むだけではなく、子どもを育て教育する母役割と、家事を遂行する妻役割が強調され、近代欧米の教育観の影響のもとに形成された「良妻賢母」主義が規範化されていった(小山1991)。雑誌などでも親への孝や家督を絶対視する「家」から、夫婦と子どもの情愛あふれる欧米を範とした家庭(ホーム)が称揚され、賢母教育の必要性から女子高等教育が振興した。国家からの要請ではあったが、「良妻賢母」という役割の強調は、生むだけの役割から教育する役割へと女性の地位を向上させる戦略でもあった(牟田1996)。このように資本主義の発達とともに、都市の豊かな給与生活者の家族に近代家族の萌芽がみられた。
新民法と戦後家族の転換
第2次世界大戦後は、軍国主義を一掃するためにGHQの民主化の大改革が断行された。民主化の一環として、「家」制度の廃止と夫婦家族制の理念の提示がなされた。新民法は「男女の平等と個人の尊厳」(憲法第24条)を基盤とした民主的家族の創出を理想とした。
理想モデルは、アメリカの映画やテレビで放映されるホームドラマの豊かで幸せな夫婦と子どもからなる家族であった。しかし民法を改正したからといって直ちに人びとの「家」意識や「家」制度が変化したわけではなく、現代でも位牌や墓などの先祖祭TEに関する「家」意識は根強い。
性別役割分業型家族における夫婦の役割関係
戦後から高度経済成長期にかけては大都市圏へ人口が集中し、地方から都会に出て就職した人たちが大都市圏の工業部門の新しい技術や生産方式の柔軟な習得を通じて、高度経済成長を生産面から支えた。さらに、大都市圏に流入した若年者たちが新たな世帯をつくり、1960年代に長期雇用や年功賃金・企業別組合などの日本的雇用慣行が定着し、夫は1人の所得で妻子を養えるようになり、妻は家事労働に専念する「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業型家族が増加した。夫が雇用者である専業主婦は1955年の517万人から1970年には903万人となった(『平成9年版国民生活白書』)。核家族世帯の実数は1955年から70年までの間に約700万世帯、比率は11.6%上昇した(『日本の人口統計総覧(2005年版)』)。
右肩上がりの経済成長下では、夫は終身雇用一年功序列の雇用体制で収入は年を追うほど伸び、妻は家事・育児に専念し、夫婦で分業すれば電化製品やマイホームも手に入り経済的にも感情的にもうまくいくことが期待できた。人びとの性別役割分業意識も、1979年は「男は仕事、女は家庭を守る」に「賛成」と「どちらかといえば賛成」の合計は女性では70.1%、男性では75.6%であった(内閣府男女共同参画局「共同参画」2015年2月号)。落合恵美子は、高度経済成長期を近代家族(Shorter 1975=1987)が大衆化した時期という(落合1994)。
共働き家族と夫婦の役割関係
1973年の石油ショックにより不況にみまわれ、1980年以降夫婦ともに雇用者の共働き世帯は増加し、1991年には877万世帯となり、夫が雇用者である専業主婦世帯は888万世帯で、共働き世帯と専業主婦世帯はほぼ半々となった(『男女共同参画白書(平成26年版)』概要)。企業は非正規労働者の雇用と賃金のフレキシビリテイー戦略を採用し、パートタイマーに対する雇用需要と能力主義が高まった。他方労働供給側では既婚女性の就労ニーズが高まり、30~ 40歳代の労働力率は約7割前後となり、子育てが一段落した後の共働き家族が一般的となった。
性別役割分業の固定化と問題
このように共働き家族が増加しても、1992年には「男は仕事、女は家庭」という固定的性別役割分業意識に「賛成」が女性55.6%、男性65.7%を占めている(『男女共同参画白書(平成19年版)』)。共働きの妻の多くは家計を補助し、かつ主婦業を行う「家事も仕事も」という二重の役割を負っていた。既婚女性が働くことの長所は過半数が「家計にゆとり」と答えているが、短所は「家事手抜き・夫への迷惑」といい、妻に家事役割が十分できないことへの自責意識がみられる(『国民生活白書(平成9年版)』)。
オイルショックを契機として低成長時代を迎え、財政再建をめざして「福祉見直し論」が唱えられ、1970年代から80年代において家族による親の扶養義務を支柱とした専業主婦を「福祉の含み資産」として位置づける「日本型福祉制度」への切り替えがめざされた。これが男性の長時間労働に拍車をかける面もあり、1990年の就業者の年間労働時間は2013時間で、米国(1831時間)、フランス(1664時間)などの欧米に比べて日本は長時間労働である(データブック国際労働比較2013)。また20歳代から45歳までの男性は自殺が死因の第1位で、女性や高齢者に比べて男性は20~ 50歳代の働き盛りの年齢帯で「経済・生活問題」を理由とする自殺が多い(厚生労働省「平成16年人口動態統計」)。このように夫は稼ぎ手役割、妻は仕事も家事・育児もという固定的役割分業に縛られ、夫も妻も規範への過同調による不適応問題が深刻化した。
家庭内の役割構造について、パーソンズ(T ParsOns)は、核家族は社会体系の中の下位体系をなしており、「男は道具的、女は表出的」という夫婦の役割分業が産業化に最も適合的であるとした(Parsons and Bales 1956=1970)。
ところで男女の役割分業には、生物学的性差に基づく生殖に関わる性別役割(sex role)と、社会・文化的に規定される性役割(gender role)の2つがある(目黒1993)。ミード(M.Mead)は南太平洋の7つの種族を調査し(1925~1939年)、「どの文化も特性(愚鈍さと聡明さ、美と醜悪、友好的であることと敵対的であること等)が違った形で、ある時は男性に、ある時は女性に、そして、あるものは両性にふりあててある」ことを明らかにした(Mead 1949=1961)。
たとえば険しい山岳地帯で作物のとれない地方のアラペシ族は受け身的な受容性、貧しいユアット川沿いの食人種のムンドグモ族は怒れる、強烈な欲望に重点を置く性格である。すなわち、それぞれの社会で男女に課せられた役割は、本来その種族の男女に内在する能力の結果ではなく、それぞれの社会制度を維持するための文化の型を学習することによって、男のもの、女のものとなると結論づけている。
このように性別役割(sex role)は、男女間で交替不可能な役割分業であるが、性役割(gender role)は社会規範や状況に応じて振り分けられた役割であり、交替可能な役割関係である。現代社会において「男は仕事・女は家事・育児」という性別役割分業は若い世代ではやや改善がみられるが、依然として妻には家事。育児役割が重く課せられている。
